立川駅前14時、私は生まれ変わった
JR中央線立川駅。スマホを確認すると時刻は間もなく13時になろうとしていた。奈良から電車を乗り継いで慣れない東京までやって来た。
大学2年の夏、私は整形をした。整形といっても別に今思えば大掛かりなものではない。それでも当時普通のアルバイトしかしていなかった大学生が目頭を数ミリ切開するために30万円近くかき集めて来たことの無い土地まで足を運んだのである。
手術はほんの30分程度、14時にはまた立川の駅前に私は立っていた。母親から借りたサングラスはとてもじゃないけど私には不釣り合いだったと思う。
美人とブスでは生涯年収が3600万円違うと言われている。お金という最も安直な尺度でさえもこんなに差が開くほど容姿とは生きていく上で重要な要素なのである。
かなり正直に言うと不特定多数の、できれば多くの人間から「可愛い」と認められたい。
大切ではない他人の可愛いという薄っぺらい言葉にそんな価値があるのか…と大抵の人は思うのかもしれない。
価値は、多分ある。多分、というのは"可愛くて得をした"という経験が人生においてあまりないためその価値を実感することは出来ていないからだ。
でも、それは裏を返せば私がもし可愛ければきっと小さな頃からありとあらゆる場面で得をしていただろうし、あの日立川駅に降り立つこともなかったのだ。
私の30万は何に変わっただろう。
3600万というのはあながち大袈裟な金額ではないと思う。
例えば愛する人ができた時、世界中の人間が私のことをブスだと非難していてもその人がたった一言「君は可愛いよ」と言ってくれたら満足かと問われると素直に頷くことは出来ない。
まあ好きな男から顔が好き、と言われたら嬉しいんだろうけど。
そもそもわたし自分に向けられた好意に対してめちゃくちゃ懐疑的なのでそういう状況が生まれた場合相手が理解出来なさすぎてキモッとなってしまいがちだし、大体大事にしたいものは壊してしまうタチなのでそのたった一人でさえ軽率に失ってしまう恐れがあるけども
6月の半ばから結構ハードな減量をはじめた
今まで24年間生きて来た中で、ブスだのデブだの陰キャだのキモいだの痛いだの重いだの好き勝手言ってくるお前らも見た目どうなんだよ?みたいな奴らの"言葉"それから表情を思い出しながら汗水垂らして精神すり減らして食事制限と運動をした
褒められたくてやったわけじゃないと言ったら嘘なのかもしれんが、それが一番の目的ではなかった
「何かを頑張りたい」気持ちはすごくあるのにその「何か」が分からなくて難しくて頭を抱えるのか辛かった
わたしじゃなきゃ、だめな理由が欲しかったどんなコミュニティにおいてもだ
モチベーションというか薪みたいな存在になってくれたあの人間達、わたしもそんな人間達の容姿でいろんな物事を図ってしまうもんだからお互い様なのかもしれない
痛い、重い…その悪口は容姿関係ないように見えるが、多分かわいい女が私と同じ行動しても
「なんかセンスあるじゃん」って言われるだけだ(そういう浅はかなクソサブカル女を何人も見てきた)
わたしもクリープハイプ好きだしお前らはMy hair is badが好きなんだろ?badなのは髪の毛じゃなくて頭の中身です
結果、10キロ痩せた
大好きな白いほかほかご飯も大好きなつるつるのおうどんも全部味忘れた愛憎は紙一重なのだ
お、人間って10キロ減らせるんだウケるとなった
ダイエットは一番の整形って言うけど、10キロ痩せたとこでブスはブスで変わらないし
ってかじゃあブスがアイドルなんてやんなよって思うかもしれないけどまあそれは置いといてください
なんでアイドルになりたかったのかなんて、1から説明しなきゃいけないのはもううんざりだ、だって自分でもあんまりよく分かってないから
大義名分とか面倒なので「チヤホヤされたかったから」でもいいんです別に
チヤホヤされるの、嫌いじゃないし、あらゆる集団のカーストの上の方にいるであろう人間に相手されるのはやっぱ虚しいけど嬉しいです、くだらねえなあ
…頭上がんないんですもん
誰かを幸せにしたいなんて傲慢すぎる
自分のこともろくに愛せないくせに人のこと愛せないって言うじゃないですか、あれってほんとなんですかね
わたしは24年間自分のことキモすぎ恥ずかしいって思ってきたので他人のことは愛せませんか?とは言いつつ、わたしほんとは自分のこと大好きです自己愛に浸りすぎてびっしょびしょですわ〜
今の父親と血が繋がってない
ほんとの父親は国体に出るくらい足が速かったらしい(ほんまか?)
男はブスでも金持ってたらモテるし足が速くてドッジボールがうまけりゃモテる
血の繋がった遺伝子上の父親は残念ながら顔はかっこよくなくて、あんなに美人でハーフ顔の母親から生まれたのにわたしはその父親に似て全然可愛くないウケる
小さい頃から容姿を馬鹿にされてきた、というか容姿がパッとしないので透明人間のように扱われてきた、「わたしもここにいまーす」とドキンちゃん並の自己主張が出来れば良かったんだけども
小さい頃は知らなくて自分のこと特別で可愛くてチヤホヤされるべき人間と思ってたよ
今なら分かる、わたしはブスだしなんか…見ていて痛々しくて重々しくて、全然楽しくないんだ
小さい頃からどんなことを考えてどんなことに傷付いて生きてきたのかあんまし覚えてない
幸せに人よりも貪欲で人一倍自分の傷には敏感だったのでたくさんのことに傷付いてきたわけで
顔が可愛かったら馬鹿にされずに生きてこれたんだろうか、楽しく人生過ごしてたんだろうか
売れてない地下アイドルなんかせず、3600万わたしにたーんと使ってくれる男と結婚していたかもしれない
もちろん男と結婚することがイコール幸せとは限らないしわたしはどちらかというと結婚に対してポジティブには見ていないけど、少なくとも若くてイキった男を見て学生の頃自分のことをキモいっていじめてきたデブのことを思い出して頼む死んでくれ〜とはならなかったかもしれないな
(おい、デブには人権がないんだからな…)
デパートの1Fは大体化粧品売り場で、ありとあらゆる化粧品がキラキラと並んでおりなんか嗅いだことのないいい匂いがします
わたしはデパコスが好き、収集癖が酷い化粧品オタクなので集めたがりです
綺麗なものが綺麗に整理整頓、並べられてるのを見るのが好きなんですよ
10000円もするアイシャドウをいくら丁寧に塗ってみても瞼はつややかな煌めきを得られない、それはわたしのおめめが可愛くないからでしょうか…白目もなんだか濁ってて透明感がありません、肌は黄色くくすんでて疲れてるし、目は左右大きさ違うし、あ〜小さい頃に歯列矯正やればよかったなあ
もうコンプレックスだらけだよどこから塗りつぶせばいい?塗りつぶすどころか、押しつぶされそう
やっぱ安っぽい薬局の匂いの方が落ち着くな
10キロ痩せようが透明感のブルベ夏()だろうが
デパコスで化粧しようが可愛くないから全部無駄なんですよ結局
早く生まれ変わりたいです、なにに?可愛い女に
人間はもう疲れたなあといった感じですけどやっぱ可愛い女は可愛いので可愛い女になりたいです